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東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)187号 判決

原告 北海自動車株式会社

被告 葛飾税務署長

訴訟代理人 持本健司 佐々木宏中 ほか二名

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、本件各更正のうち所得金額が原告主張金額を超える部分は被告の過大認定であつて違法である旨主張するので、以下この点について判断する。

1  四六事業年度

(一)  被告の主張1の(一)、(三)ないし(五)の各計算項目については当事者間に争いがない。

(二)  被告の主張1の(二)債権償却特別勘定繰入損否認額について検討するに、被告の主張1の(二)の(1)、(3)の事実は当事者間に争いがない。

そこで原告が大高建設に対する貸付金として計上したうち五、六三一、九四四円につき債権償却特別勘定としての損金算入を否認すべきかどうかについて判断する。

原告が大高建設のため一一、二五三、八八九円につき保証債務を負担していたところ、大高建設の倒産を理由として、右保証債務の支払が未了であるのに直ちにこれを大高建設に対する貸付金として計上したことは、前示のとおりである。しかしながら、保証人が主たる債務者に対して求償権を取得するのは、保証人が主たる債務者に代つて債務を弁済し、その他自己の出損をもつて債務を消滅させる行為(免責行為)をしたときである(民法第四五九条第一項後段)ところ、原告は、前示のとおり四六事業年度においては右保証債務を履行していないのであるから、大高建設に対して求償権を取得するいわれはない。したがつて、これを大高建設に対する貸付金として計上しその五〇パーセントを債権償却特別勘定として損金に算入することは許されないというべきである。

これに対し、原告は、債務が弁済期にあるので、民法第四六〇条により主たる債務者に対し求償権の事前行使が可能な状態となり、かつ保証債務の請求が焦眉かつ現実問題となつたのであるから、主たる債務者に対する求償債権とし計上処理するのは正当であると主張する。

しかしながら、民法第四六〇条により求償権の事前行使が可能であつたとしても、元来求償権の事前行使は、保証人が免責行為をするに必要な費用の前払を受け得るという前払金請求の性質を有するものであつて、保証人が現実に出揖しなかつたときは主たる債務者から受領した金額を返還しなければならないのみならず、民法第四六一条に規定されているように、主たる債務者はその事前行使に対し種々の抗弁をなすことができ、無条件に行使し得るものではないことからすれば、主たる債務が弁済期にあり、保証人が債権者から請求されているというだけでは事前求償権はいまだ不確定なものといわざるを得ず、会計処理上債権として計上する余地はないというべきである。

したがつて、被告が五、六三一、九四四円について損金算入を否認し、所得に加算したのは正当である。

(三)  そうすると原告の四六事業年度の所得金額は七、三五一、三三七円となるので、四六事業年度分更正に違法はない。

2  四七事業年度

(一)  被告の主張2の(一)、(二)の(2)、(三)ないし(六)の各計算項目については当事者間に争いがない。

(二)  被告の主張2の(二)の(1)の貸倒損失否認額について検討するに、原告が貸倒金として損金の額に算入した大高建設の車両購入に係る債務保償額一一、二五三、八八九円のうち、原告が東京いすずに対して負担した連帯保証債務額一、一五二、八八六円を除くその余の額が貸倒損失に当たらないことは、当事者間に争いがない。

そこで、右連帯保証債務額一、一五二、八八六円が貸倒損失に当たるかどうかについて判断する。右金額のうち原告が四七事業年度において弁済した額が被告主張の三〇〇、〇〇〇円のみであることは、当事者間に争いがないから、原告は四七事業年度において大高建設に対して三〇〇、〇〇〇円の求償権を取得したことになるところ、大高建設が昭和四六年七月三日に倒産したことは当事者間に争いがないから、右三〇〇、〇〇〇円の大高建設に対する求償債権は回収不能というべきである。そうすると東京いすずに係る原告と相連帯保証人であること当事者間に争いのない中島昌平に対する原告の求償債権の存否はしばらくおいても、貸倒損失として処理すべき額は三〇〇、〇〇〇円を超えることはないから、一、一五二、八八六円から三〇〇、〇〇〇円を控除した八五二、八八六円は少なくとも損金算入を否認すべき額となる。

これに対し、原告は、東京いすずに対して支払うことを契約した一、一五二、八八六円は、契約が当該事業年度にされれば、その支払期限の如何を問わず、当該事業年度に発生した保証債務として確定し、それに対応する求償権もまた当該事業年度の債権として発生主義により計上処理するのは正当であると主張する。

しかしながら、保証人が主たる債務者に対して求償権を取得するのは、保証人の出損による免責行為がされた場合であり、保証人の事前求償権は会計処理上債権として計上する余地はないというべきこと前述のとおりである。

そうすると、原告が損金算入した貸倒金一一、二五三、八八九円のうち否認すべき金額は少なくとも一〇、九五三、八八九円となる。

(三)  したがつて、原告の四七事業年度の所得金額は少なくとも五、七一九、八〇二円となり、四七事業年度分更正の課税標準は、右所得金額の範囲内であるから、同更正に違法はない。

三  よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三好達 時岡泰 成瀬正己)

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